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顧みすれば

第10章 急接近

山下商事を出ると雨が強く降っていた。

毎日 雨。

さすがに憂鬱になる。


傘を開いて歩き出そうとしたとき

目の前に1台の車が止まった。

ゆっくりと窓が開き予想だにしない人の顔が現れる

「佐々木さん 今帰り?」

「山下常務」

「駅まで送るから乗って」

「でも、すぐですから大丈夫です。
 お気遣いありがとうございます」

一礼して立ち去ろうとしたとき
山下常務は車から降り
私の手を掴んだ

「雨が強いから濡れてしまうよ。
 僕も帰るところだから。 
 通り道だし遠慮しないで」

そういって私の手を掴んだまま
車に押し込まれてしまった。


まいったなぁ。ずっと避けてきたのに
この状況、あまり良くないかも


「すみません。
 常務に送っていただくなんて恐縮です」

「だから 通り道だって言ってるでしょ。

 ところでさぁ 
 佐々木さん僕のこと避けてるよね。
 何で?」

あ、バレてる

「避けてる?そんなことないですよ。

 でも正直、常務に自分から近づいていくのは気後れします。立場が違いすぎますから」

「それだけ?じゃあ何で会議のときにあからさまに視線をそらすの?」

「それは...
 常務が素敵な方ですから恥ずかしいんです」


私は俯き顔を赤らめてみた。

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