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20年 あなたと歩いた時間

第3章 17歳

もうすぐ、高校最後の一年が始まる。
私達は今まで生まれてから十七年間、
ずっとこの街で育った。
それはすなわち私達が一緒に生きた時間だ。
クリスマスの夜、流星と見た街は
キラキラと輝いていた。そんな美しい街で、
愛する人たちと共に生きていることを、
誰にとはなく感謝した。
流星も、つらいに決まってる。
でもちゃんと理由があって
この街を出ようとしている。私は、
反対したりわがままを言うべきでは
ないのだ。

「医学部に行こうと思ってる」
「お医者さんになるの?」
「うん。おれの家、中学のときあんなんなっただろ。ずっと考えてたんだ。絶対食いっぱぐれない仕事に就こうって。のぞみといつか家族を作ったら、その家族を絶対幸せにしたいから」

それは、初めて流星の口から聞いた
『未来』だった。

「流星…」

ずっと考えていた。自分の、進むべき道。
流星がいてもいなくても、
ちゃんと生きていくための道。
流星に依存しない、
自立した大人になるために。
でも流星は考えてくれていた。
私との未来を。
これからまだまだたくさんの出会いが
あるはずなのに、他の誰とでもなく
私との未来を描いてくれた。
その笑顔があれば、私達はどこにいても
大丈夫。

「『たった八三四キロくらいで僕の気持ちは変わらない』」

いつか一緒に聴いた曲のフレーズを
口ずさんで、流星は言った。

「同じ人が『愛は勝つ』って歌ってんだから、その通りなんだよ」
「ねえ、八三四キロも離れちゃうの?」
「…いや、四十キロくらい…?」

流星は笑いをこらえきれなくなり、
吹き出した。

「よ、四十キロ?」
「そう。京都。すぐそこ」

私もつられて笑った。
電車で一時間の距離を移動すれば
確かにこの街から出てしまうけれど、
あの時私は思ったんだ。
だった四十キロでも、
一キロも離れたことのない私たちには、
じゅうぶん遠距離恋愛と言える、って。
ねえ、流星。
生きてさえいれば、
どんなに離れていてもいつかは会えるのに。
そう思えば、
あの時たった四十キロ離れるくらい
どうってことなかったね。
それなのに、
私にはとてつもなく遠く思えたの。
離れたくなかったの。
でもそれならいっそもっともっと遠くに
もう、ここには簡単に帰ってこられないくらい
遠くに行けばよかった。
変わり果ててしまうこの街から、
遠く遠く離れたどこかに。

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