
言葉で聞かせて
第10章 再来
「よし、乾いたぞ」
俺が離れると千秋は俺を振り向いて「ありがとうございます」と頭を下げた
「あぁ。……千秋、明日お前に頑張って貰わなきゃいけないかもしんねぇ」
「?」
「いや、わかんなくていいんだけどよ」
俺はドライヤーのコードを纏めながら考える
「……千秋……大学、楽しいか?」
今自分が大学生だと思っている千秋に確認の意味も込めて聞いてみると、俺の視界にいなかった千秋からは返事がない
あ、声が出ないのか
と思い出して振り返ると
「!!」
千秋は自分の身体を両手で抱き締めて震えていた
やべ
地雷だったか……?
俺は近寄ってその小さな身体を抱き締めてやろうと触れるが、千秋は俺の手を振り払って壁際まで身体を引き摺るように移動した
何をすればいいのかわからず呆然としていたところに、悠史が風呂からあがってきた
「……何?敦史、何したの……?千秋さん?」
「悠史!触んな」
「なんで?ねぇ敦史!こんな短時間で何したの!?」
「俺にもわかんねぇよ!」
俺たちの大声に身体を大きく揺らした千秋が震える手で手元のメモ帳に『ご心配おかけしてごめんなさい。気にしないでください』と書いて部屋に閉じ篭ってしまった
