テキストサイズ

暗闇で恋しましょう

第12章 1つ、また、1つ 嫌な、こと

ある程度杏に近付いて、視線をあわすように膝立ちになる。



「……」



このあと、俺は、どうしていただろう。


思い出そうにもどうにも思い出せない。


考えていると、耳を擽ったのはか細い声。



「………ひ……ちゃ………?」



杏に落とす影で気付いたのか、歩み寄る小さな音に気付いたのか。


恐る恐る上げられる顔。


そこには、充血した目と涙の跡がくっきり残っていた。



泣いて、いたのか……



どうした、何があった、かけるべき声は恐らく多種多様。


だけど、声など掛けても意味が無いことは、身を持って分かっている。


だから、俺はぎゅっと杏を抱き締めた。


あの頃では出来得ぬ行動。


今の杏にだったら、効果はあると判断した。


それは、顕著に表れ、杏は俺にしがみつき、子供のように泣きじゃくる。


その間、杏は誰かに何かを懺悔するように、ごめんなさいを永遠に繰り返していた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ