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暗闇で恋しましょう

第9章 お買い物2

いつもここらで引く筈のひぃちゃん。


なんだか今日は粘る様子。



「おい、待て。思い出せ。気になるだろうが」



えぇえ……



すごく困る。ひどく困る。


今日のひぃちゃんはどうしたというのだ。


ちょっとキレるし、焦るし、声張るし、しつこいし。


もしかして、ひぃちゃんじゃない、とか……?


いや、流石にそれはない。



「おい」



いやいや、マジでないんだって!



だったら正直に言えばいいんだろうけど、言ったら言ったでとことん呆れらそう。


それはそれでムカつく。


どこぞに逃げてしまおうにも、離れないのが条件。


何より、腕掴まれてるんですが?!



くそぉおお!



ここは、気を他に拡散させるのがいい気がする。


うん。いいアイディア。


流石私。


自画自賛も程々に。


私の目も優秀で、いい感じに腕時計屋さんを捉えてる。


ここで、あそこの腕時計云々話せば……


うん。自然な流れで気を散らせる。


そうと決まればあそこを指しまして……



「ひ、ひぃちゃん、そろそろひぃちゃんの腕時計も買い替え」



言い終わる前。


突如訪れた腕の開放感。


ぱっとそちらを向けば、居る人ぞいない状況で。



「………ひぃ、ちゃん…?」



呼ぶ声に返事は返ってこなかったのだった。

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