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エスキス アムール

第24章 逃亡日記





「小さい頃から、
ずっとそんななんだ。

誰かの背中を見続けるしか無い。

だからさ、慣れてるんだよ…
こんなことには。」



木更津は
じっと話を聞きながら、

哀しそうに瞳を揺らした。

何か、
その口が言葉を発しようと
微かに動いたが、

彼はすぐにとめる。





「…慣れてるはずなのに…、


…っ、おかしいよなあ…っ」



俺の瞳から

涙がひとつ、



こぼれたからだ。




なんでだよ。
なんで今なんだよ。


涙を流すタイミングなんて、
たくさんあったはずなのに。


選りに選って、

木更津の前でだなんて。



必死に堪えようとしたけど
もう、無理だった。

どんどんどんどん、

溢れ出る涙。



まるで張りつめていたものが
弾けるように。



離れて行くみんなが
あの人と重なる。

ずっと出なかった涙が、
木更津を前にして出た。



意味がわからないまま
泣きじゃくる俺を、

木更津は、そっと抱きしめる。


そうして、
優しい声で言った。



「…大変だったね…。


大丈夫。大丈夫だから…。」



彼の手は、
本当に優しく、温かかった。

背中にギュッと回る腕に
すがりつきたくなる。


俺に回る彼の腕に
ギュッと力がこもるたびに、

涙が溢れた。

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