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エスキス アムール

第33章 彼のシゴト




「そ、そうなの?」

彼は安堵した表情を浮かべ
僕に身体をすり寄せた。

彼の髪の毛が
胸をかすってくすぐったい。


「離れると思って悩んでたの?」

「……。」


彼は、僕の問いに目を泳がせた。
わかりやすい反応だ。
全部こうだったらいいのに。

だから最近、
あまり元気がなかったのだと合点がいく。
ここ何日か、何かを言おうとして
躊躇う彼の姿を何度も見ていた。
自分から言い出すまで待ってようと思ったけど…。



「波留くんはなんでも自分で考えて
追い詰められて決めちゃうからだめだね。」

「…ダメって…」

「僕がちゃんと聞いてあげないと。
いつ僕から離れてしまうかわからない。」

「…それはこっちのセリフ…」



口を尖らせて、ムッとする彼が可愛くて、
額にキスを落として彼の髪の毛をかきあげた。



「距離はどのくらいかな。
隣街とはいっても
端と端だったら大変だもんね。」

「うん、
近いといいなあ…」



素直にポロリとつぶやく彼が愛おしい。




「向こういったら、観光しようね」


彼は頷いて少し微笑むと
僕にキスを落とし
そして、身体に腕が回る。



「最初の波留くんだったら
こんなことしてくれるなんて
想像もつかなかったな…」


最初に見せた
あの拒否のしようを思い出すと
おかしくて、

今でも笑ってしまう。



「あの頃は、
ホモじゃなかったから。」


こんな事を言うと
恥ずかしがって拗ねていた波留くんも

最近は自虐のように
こんな事を言うようになった。


「いらっしゃい。ホモの世界へ」

「やめろ!
ホモじゃねーよ!!」


こういう
気持ちわるい事を言うと
流石に全力で怒るけど。







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