
エスキス アムール
第35章 彼と彼と彼女
「あのさ、要。
はるかちゃんとは、あの騒動の日に別れたんだよ」
「は?」
とりあえず、木更津のことは伏せて
彼女が社長に脅されていたことから何から何まで全部話した。
「お前、追いかけなくていいわけ?
もうほとぼり冷めてんだろ」
「まあ、一度会って
ちゃんと話したいとは思ってる」
木更津とのあの行為の中で、少しだけ見せた彼の哀しそうな顔が浮かんだ。
俺を彼女のところへ行かせるために、
彼はきっと傷つきながら俺を突き放した。
彼は俺のことを捨てたわけじゃない。
俺を思って、彼が犠牲になったのだ。
今回のことで一番傷ついたのは木更津で。
傷つけたのは自分だ。
自分のことに夢中で、彼の出していたサインに気がつくことができなかった。
「お前、まさか、
もう他に好きなやつがいるとか…?」
「え〝。」
「…図星かよ」
要は口をあんぐりと開けて驚いた。
顔が熱くなる。
水を一気に飲み込んだ。
「…めずらしいな。」
「なにが…?」
「こんな立て続けにお前が恋愛するなんて」
確かに今までを振り返ってみると、
失恋してから直ぐには新しい恋愛をすることがなかった。
はるかちゃんと会うまでも、仕事に夢中で恋愛にも興味がわかなかったし。
確かに自分でも、短いスパンで彼のことを好きになったのだと思った。
それと同時に、彼と過ごした時間がそんなに長くなかったことに気がつく。
彼との時間が密だったからか、
もっと長い間過ごしていた気がしていたらしい。
