テキストサイズ

エスキス アムール

第52章 第二の木更津




いつもの、木更津の微笑みがみたくて。
少しでも笑ってほしくて、頬に触れた。
けれど、やはりその表情は変わらない。


「矢吹…、どうして知ってるの?」

「昔からの知り合い。」

「矢吹とは……何にもないよ」


どうしたら良いのだろう。
どうして木更津がこんなにも怒っているのかもわからない。

矢吹と何があったわけでもないし、何をされたわけでもないし。
そりゃあ…、目では追ったけど。

それは木更津似てたからなんて。言えない。
その……、恥ずかしいし。


第一、それを木更津が知っているはずもない。


「……矢吹とはもう会うな。」

「……え?」

木更津の口から聞いたこともない強い口調で言われて、驚く。


「矢吹の会社と提携するのやめろ。」

「ちょ、ちょっと待ってよ……っ
矢吹とは何もないって…っ」


訳が分からない。

プライベートのことなら木更津の言うことを聞くけど、仕事のことは別だ。
自分の会社のことは自分と社員で決めることだ。

木更津もそれをわかっているはずなのに。


「いい?矢吹ともう会うな。
僕が言いたいのはそれだけ。」


そう言って部屋の奥に行ってしまった。
なんで…?


そう聞きたいのに、何も聞けない、有無を言わさない木更津の迫力にただただ、某然とするばかりだった。







ストーリーメニュー

TOPTOPへ