
エスキス アムール
第57章 直接対決
「葉子さんはよくセミナーにキミのこと見に来てたよね。
最初はなんて過保護な家なんだって思ったけど。
こんな母親がいたらいいなって、僕は羨ましかった。」
「……」
「葉子さんね、よく僕に話しかけてくれたんだ。
『うちの息子がちょっかい出してすみません』って。」
「…っ」
「『でも、本当は心が優しい子なんです。
多分…光平くんへの憧れの裏返しなんじゃないかしら…』ってね。」
「……、かあさん…」
頬を雫が伝っていく。
それを止める術はなかった。
母さんが優しく笑いかける顔が浮かんだ。
ちゃんと食べてるか。
仕事はいいのか。
体調は悪くないか。
自分のことよりも最期まで僕の事を心配していた。
「確かに見ていたら、キミは葉子さんのこと、とっても大事にしていたから、本当なんだろうなって思った。
だからだね、キミのこと、好きでもないけど、嫌いにもなれなかったのは。」
「…ううっ…ぅ…」
「矢吹は…本当に葉子さんのこと大事にしてたから…、彼女の死を受け止められないだろうなって思った。
…だから…」
「だから、波留くんがこっちに来ても放っておいたっていうのかよ…っ?!
ふざけんなよ?!同情かよ!!」
僕は、涙をだらだらと流しながら、光平くんにありったけの感情をぶつけた。
光平くんはさっきみたいに微笑まない。
真剣に僕と母さんのことを心配している。
そんな表情だ。
それがどうしても許せなかった。
お前の母親が死んでざまあみろくらい言ってくれたら、
本気で二人の仲を壊すことくらい、簡単に出来たのに―――。
