
触れたくない。
第4章 四
あれから二週間。
あの日から七瀬さんの家を訪れない変わりに、カケイと色んなところへ行くようになった。
指輪はさすがにできないから首にかけているけれど、最近こんな噂をよく耳にする。。
『カケイが本命をつくった』
なんて、いつの世代もこの手の話は大好物らしく、この噂はまたたくまに社内に広まっているらしい。
多分、誰かが偽の婚約指輪を見たのだろう。
でもきっと、振りの役目をしていなかったら私も信じきっていただろうなあ。
「菜月」
「あ、カケイ。終わった?」
もう定時も過ぎた頃、カケイが困ったような顔で私のデスクに来たから、今日は無理なのだとすぐに悟った。
「悪い」
「いや、別に全然いいよ。じゃあ私、先に帰るね」
「ああ」
なんだかんだ言って、カケイもマメだなと思う。振りの役目だけの私だけど、毎日送ってくれたり、デートしたり連絡をくれたり、
なんだか本当の恋人同士みたいだ。
と言っても、キスはあの日以来されていないけど…。
「このまま、本当に付き合ったほうが幸せなのかな…」
