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ネムリヒメ.

第8章 雨.




「ちょ…っ!! 痛いっ、離して…」



掴まれた手首が痛くて思わず声があげる


シトシトと音をたてて降り注ぐ雨のなか、アタシは屋敷の庭を強引に手を引かれていた

傘もささず、綺麗に巻かれていた髪は乱れ、冷たい滴が頬を伝う



アタシの前を歩くのは

……知らない男の人



その人は無言のままアタシをぐいぐい引っ張って歩を進める


春と言えど、空から落ちる滴は冷たく、雨が降れば気温も低い

雨に濡れたカラダはすっかり冷え、強く掴まれた腕はどんどん痛みが増していく

何度も腕を振りほどこうとしても、相手が男の人じゃ力では到底敵うわけもなかった


怖い… 助けて…


理解し難い状況に 恐怖がこみあげ足がすくむ


ただでさえ、雨に濡れた石畳はヒールを履くアタシにとってはとてもと言っていいほど歩きづらく、さっきから足しがもつれて 何度も転びそうになる


「っやだ……離して…っ!!」


恐怖のなか必死に絞り出したアタシの声は、降り注ぐ雨の音に掻き消され…


さっき買ってもらったばかりのワンピースは雨に濡れて肌に張りついていた


……………………




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