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ネムリヒメ.

第25章 Black Emperor.





すると、


「あぁ、そういうこと…♪」


しばらくそれを見つめた聖がニヤリと口許を歪めた


指先にピンと弾かれ回転しながら宙を舞うそれは、端から見ればただの外国通貨のコインだった

しかし、よく見れば表と裏の柄の向きが不自然に一致していないのが見てとれる

そのようなことは本来あり得ないことだし、そんなところに気が付くのは、余程コインに興味がある人間

もしくは…

そのコインの"仕掛け"を知る人間のみである


聖はおもむろに懐から自身のキーケースを取り出した

上品で飽きのこないブラックのスムースレザーのボディを開けば、ブランドカラーの色気あるボルドーが顔を出す

腕時計と同じフランスのハイブランドで揃えられた品のあるデザインはなんとも聖らしい


すると彼は、そこからキーリングのようなものをひとつ取り外すや否や、

リングの内側へコインを外周を合わせ、次の瞬間にはピタリと一ミリの狂いもなく嵌め合わせてみせた

そして、ではでは早速御開帳~♪などと軽い口振りでリングごとコインをテーブルに水平に叩き付ける聖

すると…


「…沈めなくて正解だね」


ニヤリと意味深な笑みを浮かべる聖の視線の先で、ほんの数ミリの厚みしかないコインの表と裏が、まるで受け皿と蓋とでもいうかのように姿を変える

コインはコインでもこれはただのコインではない

それを意図も簡単に見破った聖は紛れもなく後者であった

そう…このコインの"仕掛け"を知る者、である




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