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お嬢様♡レッスン

第1章 初めまして、お嬢様

綾芽は動揺していた。

両親を交通事故で亡くして1ヶ月とちょっと。

彼女は四十九日の法要と納骨の為に、とある霊園を訪れていた。

駆け落ちして結ばれた両親からは、親戚の類が居る等とは聞かされておらず、それ故、それぞれの家のお墓に入れる訳もなく、共同墓地に埋葬するつもりで訪れた。

そこで待っていたのは、ビシッとスーツを着こなした物腰の柔らかいイケ面の男性だった。

「初めまして。杜若綾芽様。私、東乃宮家で家令を務めさせて頂いております、葛城と申します」

にこやかに『葛城』と名乗った男性は、胸に手を当てお辞儀をした。

流れる様な美しい所作に見蕩れてしまう。

「どうされました?」

柔らかく首を傾げ微笑む男性。

「あ…いえ…」

見蕩れていた等とは言える訳もなく、綾芽は俯いた。

きっと紅く染まっているであろう自分の顔を見られたくなくて。

「その…何の御用でしょうか?」

両親の骨壷を抱き締めて俯いたまま、綾芽が尋ねた。

葛城と名乗る男性とは初対面であったし、『東乃宮』と言うワードとの関連も心当たりがない。

「かのような所で立ち話も何です。あちらに当家のお車が止めて御座います。そちらでお話をさせて頂きたいのですが、如何でしょうか?」

男性は柔らかな笑みを浮かべたまま、駐車場の方へと視線を流す。

駐車場には数台の車が止まっていたが、その中でも一際目を引く、長い黒塗りの車が印象的だった。

「見ず知らずの方の車には乗れません…」

「それもそうで御座いますね。警戒心の強い事は良い事で御座います。それでは、部屋を御用意致します。そちらでは如何でしょうか?」

第三者が関与する部屋の中であれば、少しは安全だろうと、綾芽は彼の提案に頷いた。

「では、管理者の方と話を付けて参ります。このままお待ち頂いても宜しいでしょうか?」

葛城の問い掛けに再度頷くと、彼は霊園の管理者と話しに事務所へと立ち去った。

その後ろ姿を見送った後、綾芽は空へと目を向ける。

今日は良い天気だ。

雲1つ無い空は抜ける様な青さだった。

綺麗に芝が敷き詰められたこの霊園は、海を臨める切り立った場所にある。

風が運んで来る潮の香りは、夏の始まりを告げていた。

「お待たせ致しました。こちらへどうぞ」

いつの間にか戻って来ていた葛城が、綾芽を促し先を歩く。

綾芽は彼に従った。

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