煩悩ラプソディ
第26章 君がメロディ/AO
その時は、突然訪れたんだ。
いつものように仕事から帰宅すると、玄関の灯りもついていないし『ただいま』にも返答がなく。
またどっか行ってんだな、って思いながらリビングの灯りを点けた時、なにか違和感があった。
空気がいつもと違うような、微妙な違和感。
ふとテーブルに視線を落とせば、封筒とCDのケースが1枚置いてあって。
手に取って封を開けると、四つ折りになった手紙が出てきた。
『相葉ちゃんへ
今までお世話になりました。
たくさん迷惑かけてごめんなさい。
相葉ちゃんの優しさに甘えて、居心地良くてつい入り浸っちゃってごめん。
相葉ちゃんには感謝しても足りないくらいだから。
俺ができることはこれしかないと思って、今日まで粘ってここに置いてもらった。
実は俺、バンドでボーカルやってんだ。
昼間出かけてたのは、バンドの練習と売り込みの為で。
今まで相葉ちゃんに黙ってたのは、仕事もしてねぇのにバンドやってるなんてとても言えなくてさ。
こんな歳にもなって夢追っかけてるなんて知られたら、恥ずかしいじゃん。
でもな、今度その夢が叶うんだ。
インディーズでデビューすることになったんだよ。
そのデビュー曲、俺が作ったんだ。
相葉ちゃんを想って。
相葉ちゃんへ感謝を込めて、俺が作ったんだよ。
今日やっとそのCDが完成したから、相葉ちゃんに一番に聴いてほしくて。
面と向かって渡すのはなんか照れ臭くて、こんな形になったけど。
俺、相葉ちゃんと暮らした毎日すげぇ楽しかった。
居候の分際で言えないけど、ほんとに楽しかったよ。
ありがとう。
これ以上書くと寂しくなりそうだから、もうこの辺でやめます。
いつかもっとメジャーになったら、今度は俺が毎日でも相葉ちゃんに飯おごってやる。
だから、楽しみに待ってて。
じゃあ、元気でな。
智』
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える