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キョウダイ

第16章 流されてゆく思い







ぷいっと顔を背けて、そのまま、真っ直ぐ葵の部屋に行った。






「おい、お前まさか……」






呼び止める海斗の声を無視する。






「うるさいなっ」






だってもう離れないって、決めたんだから。






葵の部屋のドアをそっと開ける。







中に入った瞬間、何とも言えない甘い香りがする。






葵の部屋の香り。






石鹸、シャンプー、柔軟剤。






懐かしく、胸が締め付けられる。






それだけで、もう、くらくらする。






木目調の暖かみのある家具。






アンティークでオシャレなのに、意外と渋く和風な小物類も好きみたいで、雑貨屋みたいな部屋の雰囲気。






小物類の配置もすべて計算されているらしい。






触ると怒られた記憶がある。






気に入ったモノを大事にする。






裁縫が得意だから、破れたモノを直したり、意外に器用。





レース編みにもはまってたし、パッチワークキルトの布団カバーがあったりする。






ハマると平気で徹夜続き。





熱が覚めると規則正しくなる。






母さんはああ言ってたけど。






葵は服を作るのが好きだと言っていた。






「葵……?」





衝動的に部屋に来たけど。






ただ、傍にいたい。






葵のベッドに近付いて、そろりと布団に入った。






ふわりと甘い香りがまた強くなる。





暗やみに目が慣れて来た。






葵の背中を抱きしめる。






柔らかくて、小さい。






丸まってる背中が可愛いくて、愛しい。






白いうなじ、長い髪。






暖かい体温。






幸せ。






全てが愛しくて、それだけでも満足なのに。






泣きたくなる。






どうしようもない、衝動……。






それだけでは満足できない。






もっと葵を感じたい。






もっと近付いて、葵の体温を感じたい。






葵の体に俺の全てを刻み付けたい。






どうしたら、俺だけのモノに、なってくれる?

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