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キョウダイ

第19章 悠ちゃんの生活





新幹線なんて、久し振りで、一人でなんて乗った事はない。




あたしのケータイのカバーは、手帳型でポケットに入れてある、古い新聞の小さな切れ端。




そこに小さく載ってある、昔の事故の記事に、住所が書いてある。





明が持っていて、貰ったモノだ。





それを大事にしまって、新幹線の中で考えをまとめる。




新幹線を下りたら、バスに乗り換える。





行き先は人に聞けば分かる。





大丈夫、昔、明が言ってた。





迷子になっても、自分の足と、人に聞く為の口さえあればどこにだって行かれる。




親切そうな人を見極めて、教えて貰えばいい。





一人でも、どこにだって、行ける。





どうにかなる。





駅に着いて、色んな人に聞いて、バス停に案内して貰って。





バスに乗ってからも、教えて貰った通りに、通り過ぎるバス停を数えた。





カーブの多いい山道。





右を向いても、左を向いても、山道でどれも同じ風景に見えるのに。





胸の鼓動が早くなる。





覚えてる訳なんてないのに、自然と席を立って、バス停が見えて、バスを下りた。





……違う、ここじゃない。





どうしてだか、気持ちがはやり、歩く速度が早くなる。




今日1日、沢山歩いたのに、小走りで走る。





カーブがあって、ガードレールが派手な、開けた場所が、見えた。





迷うことなく、足がそこに向かった。





「…………………!」





強い風が吹いて、あたしの髪を揺らし、寒さに少し震えた。




眼下に広がる、ダム、あれは、大きな貯水地。





遥か下に見える、小さな民家。





深い山と林、大きな木が沢山並んで、緑の葉の擦れる音と、草と水の香りがした。





『パパ〜、葵、気持ち悪い〜』





『それは困ったね〜』





『奏ちゃんは気持ち悪くない?』





『……パパっ、前見てっ、前っ!』





繰り返し見続けた悪夢は現実の事だった。





恐いゆめだよ。





誰もが言ってくれて、しょっちゅう寝ればうなされるあたしを、助けてくれた。





助けてくれたのはあたしと一緒に過ごしてくれた、キョウダイ。






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