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A子は絶句した。
とっさに何を言われたのかわからない、といった様子だった。いや頭が理解することを拒んでいたのかもしれない。一拍置いてから、A子は苦笑いをうかべ、かるく頭をふった。
「結婚する相手もいない年増！」「もしかしてあんた産めないからだなんだろ？」
都議会で、妊娠・出産する女性への支援の必要性を訴えていた途中に、そんなヤジがA子にたいして投げかけられたのだ。
笑顔で受け流そうとしたA子だったが、その声はかすかに震えていた。怒りと、おそらく屈辱、くやしさ、そういったもので。
A子は、そのままなんとか質問を終えた、がその目には涙が光っていた。
翌日、A子は都議会に抗議文を提出した。
けれども発言者が特定できていないという理由で受理されなかった。
実はA子はヤジを飛ばした人物がBであることをあの瞬間に見ていた。
しかも都知事をふくめ、その周囲の人たちまで一緒になって笑っていた。
その光景が思い出されるたびに、A子の鼓動がはやくなる。
A子は、何度もBの名前を公表しようと思った。けれども周囲の反対にあい、今にいたる。
無力さと悔しさに意気消沈するA子。
やがて、A子自身も、あまり騒ぎを大きくせずにこのまま忘れてしまうのが一番いいのだろうと思いはじめていた。