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生徒会長の苦悩―初めてを貴方に

第1章 満たされない


「ただいま」

「お帰り、遅かったね。 生徒会?」

「うん、だらだら長引いちゃってさー」

「ご飯温めるから、着替えておいで」

「うん」

お母さんはいつもこんなふうに労いの言葉をかけてくれる。自分も朝早くからパートの仕事で疲れてるはずなのに―――

私は手を洗い、着替える前に、リビングの隅の棚の上のお父さんの写真に手を合わせる。

ただいま。
執行部って大変なんだよ。昔のお父さんみたいなやんちゃな生徒がいると特にね。
お父さんが中学生の頃は、生徒会長のこと軽蔑したりしてたんじゃないの?内申良くするためにでかい面してる、とか言って。
まぁそういう人もいるけどさ。私は違うよ? 皆が楽しい学校生活送れるように頑張ってる。自分を犠牲にしたっていいよ。

そんなこと言うなよ。 お前は俺に似て責任感が強すぎるんだ。 皆に楽しく過ごして欲しいんなら、まずお前が楽しまなきゃだめだろ。 苦しみながら頑張ってる会長に「楽しんで」なんて言われたって説得力ないだろ?

―――こうやって心の中で話しかけると、三年前に亡くなったはずのお父さんの声が聞こえてくる。
そうだね、まずは私が楽しまなきゃだね。
お父さん、いつもありがとう……


「涼子? 何泣いてるの……あ、お父さんになんか言われたの?」

「うん、今日はお母さんの機嫌がいいよって言ったら、じゃあ今日はビールじゃなくて焼酎供えて欲しいって伝えて、って」

「もう、本当に……」

お母さんも呆れたふりをしながら、嬉しそうに焼酎のボトルを持ってくる。

よかったね。
いいこと教えてもらったお礼だよ―――

写真立ての中のお父さんが、ほんの少しだけ、優しく微笑んでくれた気がした。



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