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旅は続くよ

第16章 八方塞

A「忙しそうだね」

M「そうでもないよ。
培養実験も上手く結果が出たし」

A「でも、こんな夜中まで…」

M「今日はたまたま。来年の今頃はこんなモンじゃないよ。薬剤師の国家試験で」

A「…無理しすぎんなよ?」

M「大丈夫だって。子供じゃないんだから」

A「うん…、分かってるけど…。
俺は応援しか出来ないからさ…」


まー兄が少しだけ寂しそうに笑う

それを見ると、つい“甘えん坊の弟”を演じたくなるけど

分かってる

そんなのは自分の首を絞めるだけだって…


まー兄はきっと

子供が大人になっていくのが嬉しいような、寂しいような

そんな親みたいな気持ちになってるだけなんだ

でも、それだってきっと

恋人が出来れば忘れてしまう位の軽さ

俺とは違う

…全然、違うんだ


A「そうそう!今日ね、いい物買ってきたんだ~」

まー兄が急にはしゃいだような声を出して

冷蔵庫から小さな箱を取り出してきた


A「クフフッ、何だと思う?」

見るからにケーキの箱だけど

あんまりワクワクした顔してるから

俺もついつい

M「え~、何なに?分かんねー」

ケーキとは答えないでしまう


A「当ててみて!潤の大好物だよっ」

M「えっ、マジで?ちょっと待って」

ケーキの箱には店名も書いてない

何処にでもありそうな、真っ白な箱

…まさか、中身はケーキじゃないとか?

まー兄なら有り得るからな…

こういうクイズになるとムキになる俺を、まー兄は笑顔で眺めて

でも待ちきれなくなっちゃうのも、いつもの事


A「ギブ?ギブだろ?」

M「待ってってば。えーっとね…」

A「ハズレ!」

M「おいっ、まだ言ってねーよ!」

A「ふふっ、もうダメ。時間切れ~」


中身を当ててないのに、まー兄は箱を開けていって

現れたのは

A「ジャ~~ン」

見覚えのあるティラミスだった




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