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旅は続くよ

第12章 無理

S「ほら、言う事聞けって」

N「も~、心配しすぎ…ぉっと」

フラついた足元に一瞬心臓がギュッと縮んで

S「ニノ!」

思わず足を掴んだ

N「ふふっ、焦った~」

当の本人は笑ってるけど、俺は随分肝が冷えたよ

S「もう降りて。頼むから…」

差し出した手をニノが掴んで、ヨイショと壁を飛び下りた


S「ほら、あそこ。ちょっと座ろう」

コンクリート壁が途切れて海辺に出れる階段がある場所にニノを連れて行って

2人並んで腰を下ろした

S「寒くないか?」

N「うん、大丈夫」


ペットボトルを両手で持って小さく座るニノに話し掛けて

暗い海を2人で眺めた


明かりの届かない海は波の姿は見えなくて

寄せては返す音だけが響いてる

酔いが醒めてきたのか、さっきのハシャギっぷりは成りを潜めて

落ち着いた様子の横顔をそっと窺った


S「取材、上手くいった?」

N「うん、今日はありがとね。助かっちゃった」

S「いや、あんま役には立てなかったけど…
今日一緒に来れて良かったな、とは思う」

N「ん?なんで?」

S「ニノの仕事ぶりが見れて良かった。
この仕事、好きなんだなって思ったよ」

N「…そう?…そうかな…」


ふと表情に翳りが過る

好きな仕事で良かったな、って

褒めたつもりだったのに

何故だろう

なんで表情が曇る?


S「違うの?」

N「…どうかな。わっかんない」

S「わかんないって、お前…」

N「翔ちゃんは?今の仕事好き?」

S「俺は…、特に夢があって市役所に勤めたわけじゃないけど…
今やってる仕事は面白いよ?
使命感もあるし」

N「そう。…いいね、良かったじゃないですか」

S「ニノは違うの?」


1度企業に就職したのに

1年も経たない内に辞めてフリーライターになったと聞いた

それこそ好きで就いた職業じゃないか

さっきの取材でも、傍から見ても楽しそうにしてたのに


S「…ニノ。前に原稿書いてた雑誌廃刊になったって言ってたよな?
新しい仕事先、ちゃんと探してる?」

その問いには答えないまま

視線は暗い海に縫い止められてる

S「ニノ…?」

人形みたいに動かなかった体が

ため息にも似た大きな息を1つ吐いて

少し俯いてしまった

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