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Face or Body

第64章 数ヶ月ののち…

アカリは
マンションの玄関で部屋の鍵を
娘トウコを抱っこしながら
片手でポケットを探り探し当てた。

カチャッ…
鍵を開けると
アカリはドアを開ける前に
瞳を閉じて大きく深呼吸した…。

アカリはヒカル時代から
ここイチバンの大勝負の時には
そうしていた。

そして
アカリの背後10mほどの
廊下の角から
まさに今アカリに声をかけようとしている
アキラに向けて
『尾行にも人柄が出るのかなぁ… …巻町さんは、真っ直ぐで嘘をつけない人だから、尾行ヘタ過ぎますよ…。』
と言葉を投げ掛けてから
振り向いた。

アカリの背後から
アキラが苦笑いしながら姿を表した。

『いつから気づいてた?』

『はい…。交番を出たときからずっと…。 ホントにヘタにも限度がありすぎますよ』

『…やっぱり俺は、一生交番勤務の警察官だよな…。 ヒカルとはえらい違いだ…。』

『でもきっと、奥さまヒカルさん…。そんな巻町さんだから愛してらっしゃると思いますよ』

『そうかな…。よくコロリと騙されるんだよな… …………例えば…そっくりの顔の女に…』

『今でも騙されてるんですか?』

『いや… もう騙されてはいないよ…。 今夜はね…俺のヒカルを実感するためにやって来たんだ…。 騙されやすい俺だけど……。嫁の警察官としての能力や… …嫁の料理の味や… …嫁のおどけたしぐさや…… 顔だけじゃない内面というかさ…   ……長い間一緒にいた言葉だけじゃ説明できない空気感というかさ…。やっぱり、俺のヒカルは、今一緒に暮らしてるヒカルじゃなくて、俺の心のなかの本能的な直感からしたら…。  ………直村明里さん、あなたがヒカ(ルだと確信してる。)』

アキラの精一杯の言葉の最後は
アカリからの
口づけで消し去られた…

『こんな子連れ未亡人を、奥さまと間違えるなんて…。 でも私が巻町さんのいう【俺のヒカル】だっていうことを実感できるか…。試してみる? ………そして、その根拠を教えて…。』

アカリは
潤んだ瞳でアキラを見つめて
そう囁いた…。

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