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泣かぬ鼠が身を焦がす

第1章 濡れ鼠


雨が降ってる

バケツをひっくり返したようなってのは上手い表現だ、なんて呑気に考えていられる俺の頭はもう大分やばいんだろう

でも仕方ない

濡れた服は重くて冷たくて俺の身体から熱を奪っていってるし、前の飼い主はもう迎えには来てくれない

捨てられたんだから


何かのお店の閉まったシャッターの前に座り込んで、背を預ける


『もうお前はいらない』


だって


思い浮かぶのは元飼い主の顔と最後の言葉


お前が拾ったんだから最後まで責任を取れ、なんて言えるはずもない

いい思いはさせてもらえてたし、セックスだって上手かった
文句はない


「っくしゅん」


だから全く恨んでないし嫌いになってもない

けど

追い出すならせめて晴れた日にして欲しかったなぁ


雨の日だけは、まじでやめて欲しかった


あ………………やっぱりもうダメかもしれない
目の前が霞んで見える

さっきまで見えていた伸びきった黒い前髪は、もう闇に溶けて見えなくなった


つまり、目の前は真っ暗で

横に傾いだ身体に気がついたのと、遠くで誰かの叫び声が聞こえたのと、俺の意識が途切れたの

全部が一緒に起こった


途切れる間際に俺の意識の端に残ったのは


冷たいところで死ぬのは嫌だな


ってことだけだった

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