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泣かぬ鼠が身を焦がす

第27章 苦あれば


少しだけ陽が上って、人の気配が動き出した

朝食とか、出勤前の準備とか
そういうのだろう

ってことは、人がそとに出てきてしまうのももうすぐなわけで


やばいな
急がなきゃ


俺の心は随分と焦っていた

少し前から見えていた大きなマンションの端は、徐々に物に遮られて見えないということがなくなってきている

本当に、後少し


けどその時、また俺の膝がガクン、と折れた


「……っ」


へたり込むように地面に手をつくと、喉の奥からゴボッと嫌な音がしてやけに温かい唾液が湧き出てくる

そして


「……っゔぇぇ……ぇぇ……っ」


昨日の晩御飯を全て道路の端に吐き出してしまった

ビチャビチャ、と汚い音を立てて地面に広がるそれの臭いが、更に俺の吐き気を増させて


「おぇぇぇ……」


立て続けに何度か吐く

全部吐き切るとすぐに腹痛に襲われた


晩御飯は全部出切ったはずだから下痢じゃないし、なんで……っ

い、て……


吐き気と、あまりの痛みに浮かんできた涙で視界が霞む

俺はその場でお腹を抱えるように蹲った


後少し
なのに


と、そこで自分の周りで何やら声がしていることに気がつく

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