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泣かぬ鼠が身を焦がす

第29章 黒白を


そして唇が離れた

離れた、とは言っても顔はまだ間近にある

拓真さんはそのまま


「他の男とのことを思い出すなんて、妬ける」


と言った


妬ける
妬けるだって

拓真さんが嫉妬したって


「へへ……」
「なんだ?」
「別に?」


他の人のこと考えたらやだって


俺は両手で口元を覆ってにやけの止まらない顔を隠す

けど、当然笑い声も漏れてるから拓真さんにはバレバレで


「何笑ってるんだ」


って言われながら覆った手の上からキスをされた

俺の手にキスをした拓真さんはそのまま顔を離さず、合わせた手を割るようにして唇を探ってくる


「たくま、さ……ん、ふ……ふは」


その感じがなんか動物が餌を漁ったりしてるみたいで面白くてまた笑った

拓真さんは散々キスをした後、俺をまた押さえつけるみたいに抱きしめる

そして耳元で


「純の中にある俺以外の記憶を、全部消せたらいいのにな」


と呟いた


やば
きゅんとした


「おかしいな……これまでの色んなことがあって今の純がいるのに」


自嘲気味に笑う拓真さんの顔を俺は手で挟む


「?」
「……俺も、そうなりたいな」
「!」

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