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泣かぬ鼠が身を焦がす

第5章 猫の前の


動揺した杉田さんを他所に俺は手を振りほどいてベッドに入った


「おい、本当にいいのか?」
「ん……寝る……」


杉田さんに背中を向けて横になった俺の手は、微かに震えている


なんで
こんな時に

思い出したんだ

前にも、杉田さんに溜息つかれたことくらいあったじゃん
仕方ない、も言われたことあったじゃん

なのになんで


あぁ、だめ
きっと今日は何してもあの夢


「ノラ?」
「…………」


俺が無視した杉田さんの呼び声は、びっくりするほど優しくて
すごく悪いことしてしまった気分になる

せっかく、俺のこと考えてしてくれようとしてんのに


「……なに」


返事を返すと、杉田さんがほっとしたように雰囲気を和らげる

そして俺の頭に大きな手が乗った


「悪かった。言い方が気に障ったんだろう?」


違う
違うよ


これは俺の問題で
杉田さんは悪くない

俺が勝手に道で倒れてて、保護してもらって
生活を保障してもらって

なのにわがまま言ってる
それをさらに叶えてくれようとしてる

なのに

俺の身体の震えはなんでか治らなかった


かろうじて杉田さんに違う、と首を振ると後ろから優しく身体を包まれる


「本当に悪かった」
「……」


泣きそうだ

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