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異彩ノ雫

第20章 intermezzo アンティークドール ~旅路の果てに




━━ ここはどこだろう…


部屋を埋め尽くす人の群れ
緊張と高ぶりの混ざるざわめき
注がれる不躾な視線


「次はNo.11…」
告げる声に静寂が訪れる

「ビスクドール
製作者、製作年不詳…」
人々の視線は好奇の目に変わる

━━ それが私のことならば
生まれた年も
生みの親も知っている

彼女は壇上で
久しぶりの外気を深く胸に吸い込んだ

━━ 年老いた彼が私を生み出した時
壁のカレンダーは1901年となっていた…


職人気質の人形師が
彼女を注文主に届けたのは
その年のクリスマス
称賛の声とともに少女の腕に抱かれ
ひと時の愛を受ける

彼女の亜麻色の髪は 長く豊かに波打ち
薔薇色の頬 チェリーの唇も愛らしい
そして
海を映す碧い瞳が
とりわけ人の心を魅了した

━━ どこへ行くにも私は少女と一緒だった
けれどいつしか
棚に置かれることが多くなり
ついには箱に入れられ
…忘れ去られた


次々と告げられる数字に
高まる熱気

━━ あれから
何人もの手を渡り旅をしてきた
次はどこへ行くものだか…


「……他にいなければ…」
ハンマーの音が響き
人々の間からため息が洩れる



「……やっと巡り会えた!」
別室で彼女を抱き締め
はらはらと涙を溢す銀髪の婦人

━━ 私はこの人を知っている…
記憶の闇に光が当たるような
不思議な感覚が彼女を包む


「祖父が生涯でわずか九体だけ作った
あなたは最後のひとり…」

探し続けていた
本当は私があなたを欲しかった、と
抱きしめる手に力がこもる

虚ろな時が色彩を取り戻した…


━━ ………見つけてくれて ありがとう…

船が港に着くように
彼女の長い旅は今 終わりを告げる







(了)


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