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キラキラ

第9章 どきどき


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勉強は、嫌いだ。

特に英語。

スペルを覚えるところから、俺にしたらありえない。

単語を100も覚えるくらいなら、化学式を覚えるほうがマシ、と思ってた。

だけど、ゲンキンなもんで、英語が苦手教科で良かったって、最近じゃ思っちまう。

あの人に教えてもらえるから。

そんな下心満載で、今日も俺は、自習室に向かう。




ほぼ毎日昼休みをここで過ごしてると、大体集まってくるメンツを覚えてくる。
例えば、一番窓際の一番最奥に陣取るのは、三年生の銀縁眼鏡の人、逆サイドの壁際は、二年生の長髪の人、といった具合。

俺は、部屋に入ってすぐ、三番目の列の壁際に座る、と決めてる。

毎日同じ場所に座ってると、なんとなくいつもそこにいないといけない気分になってくるもので。たまに、別の場所に座っても、なんだかしっくりこず、結局、場所移動してしまうのであった。

今日出た課題と、英和辞書、和英辞書、参考書を積み上げ、俺は、いつもの場所に座った。

ぐるりとあたりを見回す。
今日は、自習室の利用者はそんなにいないみたいで、空席が目立つ。
探してる人物は…………いない。

今日は、来ないか…………。

別に約束をしてるわけじゃないし。

ちょっと、がっかりしながらも、気を取り直して、シャーペンをカチカチとノックしながら、問題を熟読し始めた頃。


「お。今日も英語の課題?」


後ろから、ふふふと含み笑いがした。


…………来た。


思わず、笑顔になってしまうのをこらえながら、振り向いて見上げる。

少し染めた明るい茶色のさらさらの髪が目に入る。くしゃりと細められた瞳が、優しい。
手に持ってるのは、数学の教科書。


「…………こんにちわ」

「なにお前、その顔。また全部分からないとかいう?」

相葉先輩は、面白そうに、肩越しからのぞきこんできた。

「えっと…………」

「…………おい、少しは考えたか?」

「考えましたって」

「うそつけ。ノート真っ白じゃねえか」

ひそひそ笑いながら言葉をかわす。

肩口に相葉先輩の顔。

先輩の体温や、呼吸が近くて、ドキドキしてきた。
男のくせにいい香りするし。

なんだろ…………香水のわけないな。

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