
キラキラ
第26章 10カゾエテ ~Count 10~
幽霊のようにふらふらとトイレをでて。
部屋に戻ったら、翔はいつもとかわらない横顔で、勉強していた。
「おかえり。どうした?腹でも痛いの?」
ノートから目を離さないまま、穏やかに声をかけてくれる。
「……」
……苦しいな……なんでだろ。
……すっげー苦しい。
黙ったままの俺に、訝しそうに翔が顔をあげた。
くるんとした、ドングリのような目が俺を捉える。
「?……潤?」
……ああ、そうか。
こいつの笑顔にきゅんとしてた意味。
ちょっとドキドキした理由。
翔に触れるのが好きだったわけ。
……なんか……今、分かった。
翔が他のやつのものなんだって……それが分かったとたんに気がつくなんて。
俺は、マヌケだ。
「……」
さっきから張り裂けるように胸が痛い。
……普通に息ができねぇよ。
「潤?どうした? マジで具合悪いの?」
俺の異変に、翔が慌てたように、立ち上がって歩み寄ってきた。
「ああ……顔色悪いね。ベッドに行こう。ほら」
腕をとられたが、その手を反射的にはねのけた。
翔が、びっくりしたように、動きをとめた。
その傷ついた瞳を見て、とたんに後悔する。
何してんだ、俺は。
八つ当たりしてどうする。
……こいつは悪くない。
誰も悪くない。
「ごめん……ちょっと調子悪い。寝るわ」
「あ……うん」
短く言ってベッドにもぐりこんだ。
翔に背を向けて丸くなる。
どんな言葉もシャットアウトするかのような、俺の様子に、翔は静かに部屋の電気をしぼり、自分の机の電気のみをつけて、再び勉強を始めたようだった。
肌布団を肩までひきあげ、俺は、表情をかくした。
柄にもなく、泣いてしまいそうになった。
翔に嫌われてないだろうけど、俺に、特別な感情を持ってくれてるわけじゃないことが、ハッキリした。
そりゃそうだ。
俺たちはただのルームメイトで。
……男同士で。
でも、翔は大野の恋人だった。
いったいいつのまに付き合いはじめたのだろうか。
「……」
静かに何度も深呼吸した。
頭が熱くて沸騰しそうだった。
翔の目が俺を見てないことが、こんなにもショックだ。
……だって。
分かったんだ。
俺が好きなのは、翔だから。
