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影に抱かれて

第2章 月と太陽

以前のフランクール家は伯爵家とは言っても名ばかりで、裕福な豪族の出である夫人を迎えるまではかなり苦しい生活を強いられていた。労働などは堕落の象徴とされる貴族社会で、伯爵自らが庭仕事をするなどとは通常考えられないことだ。

「あの頃は本当にご苦労されましたなあ。しかし若旦那様の代になってからの当家は見違えるほど……」

「おいおいジャン、もう若旦那はないだろう」

枝にはさみを入れながらプッと吹き出し、その後わざとらしく顔をしかめて見せる伯爵だったが不快に感じている様子は全くない。

そしてジャンも、ニコニコと笑いながら切った枝を入れる袋を伯爵の手元に差し出しさりげなく受け止める。

以前から感じていることだったが、まだ子供であるリュヌから見ても二人は理想の主従関係だと言えた。

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