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第6章 記念日には A×N
相葉は焦っていた。
朝早く、恋人には仕事だと嘘をついて
家を出て、街を駆け回ってかれこれ数時間。
だか、相葉にとっては身体的なことよりも
恋人に嘘をついたという罪悪感の方が、
時間が経つほどに濃くなっていくのだ。
何せ嘘を付くことが苦手で
優しい相葉のことだ。
とても心苦しいのだろう。
変わったヤツだと思う人もいるだろうが、
これが相葉なのである。
相葉の中で、四割ほどを占めている焦り。
色んなお店を回っては、何も持たずに
店を出て、ため息をついている。
本当に探しているものには、出会えない。
恋人に嘘をついてまで、暑い日差しの中
街を駆け回るのには理由があった。
今日は、相葉と恋人とが出逢って
ちょうど十年目の記念日なのである。
「どうしよう…。和…。」
時計を見つめては、恋人の名を呼んで
ため息をついている。
最近は仕事が忙しく、
正直な話、昨日の夜まで
相葉は気が付かなかったらしい。
すっかり忘れてしまっていたようだ。
自業自得だと言ってしまえば
それで終わりなのだが、どうしてか
憎めないのが、相葉の不思議な所である。
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