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Best name

第5章 呪縛から…解き放て

『…見くびんなよ?』


唇をはなしてアイルの耳元でつぶやいた



『ハァ…ハ・・・どうして…』


『アイルの過去に何があったかも…
何をしたかも…どうだっていい

聞かなくたって良いし
聞いたからって何も変わらない

オレは…アイルが好きだから』




『…~~っ…なんで…ぇ?
女の子らしさもなくて…』


『うん』



『可愛げもなくって…』

『うん』




『突然おかしくなって…
ハゲまでつくるような‥』

『うん』


アイルの頭をポンポンとなでる



『その上
人に言えないようなことのある子なんか‥

どうしてあたしなんか‥
リョウキならもっと…良い人に…』




『クス……オレはアイルがいいんだ

他の人じゃなくて…アイルが

好きに理由なんかないんだろ?』



『~~っっ~~…~』


アイルの目からボタボタと
大粒の涙がおちてくる

目を覆って泣いているアイル

オレは小さなアイルをひょいと抱き上げ
ソファに移動した

自分の膝にアイルをちょこんと座らせる

肩を震わせるアイルの背中を撫でて
落ち着くのを待った


『りょぉ…き?…っひくっ…ぅく…ひっく』

『うん?』



アイルが床の上の薬の紙袋に手をのばした


薬を飲むのかと思いきや

ペンをとって中の薬をバラバラと出し
袋の裏の白紙面にキュ…キュっと

ペンでオレの名前を漢字で書き始めた



『〃良希〃って…良い名前だね

きっと…生まれる前からずっと…楽しみに…
大切に大切にされていたんだろうなって…

そんなこと思ってた
良希にすごく似合っている…素敵な名前…』



『…?』


突然何を言うのかと
黙ってアイルを見守る

キュキュキュ…

続いて自分の名前を書いた



〃愛留〃



『パパとママがつけたんだって…
愛を留める……だなんて

こんな字かくんだよ
信じられない…

自分たちは、留められずにいなくなったクセに
あたしにだけ…こんな重たい
呪文みたいな名前押し付けてさ

…こんな…ちっとも自分に見合わない…
似合わない名前…大っキライ

名乗るのも、呼ばれるのも
すごくキライだった』



そういうことだったんだ…


オレは誰よりもキレイで
誰よりも繊細な
ガラス細工みたいなアイルの心に触れた

名前にまで縛られて
自分を責めて生きてきたかのような

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