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密猟界

第1章 雨の中,傘のなか。

 白っぽい雨の降って来た中を、ふたつの傘が、肩を並べた仲の良い兄弟のように、小さな路の上を、向こうからやってくる。
 傘がお互いに少し揺れて、離れてはまた並び歩く。
 雨は小止みになり、遠い空から明るい光も注いだ。
 ふっとふたつの傘が、立ち止まった。片一方の傘がそっと、傾き…「チャンミン」その囁きが終わらないうちに、紅るんだ唇が、囁きの言葉を紡いだ口を、優しく押し包んだ。
 頬に微かに笑いを浮かべたユノの横顔─傘の影に細かい雨粒と一緒に、覗く。
 「止んできました…ね、─良かったですね。ユノ?」雨上がりの虹のような、鮮烈な貌がやはり、傘の影から覗いた。
 「うん。…」ブルーの傘の色を受けて、ユノのおもては青ざめて見える。いっぽうのチャンミンは、朱のまさった紫色の傘。
 ユノの笑顔がチャンミンの頬にも、笑みを誘った。
 軽い握手のように、チャンミンの手をとるユノ。さらに笑顔が濃くなったチャンミンが、云う─。「独立した記念の二人での旅行。気分良いですね」「あぁ…、事務所を離れて─今度はまた─本当にふたりきり、だ」
 チャンミンはその言葉に、満足げな笑顔で答える。

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