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MITO

第4章 初勤務

 何者は毛で覆われた手を、水戸さんに突き出した。


「あなた……家政婦の講習会にいた……」


『っ!!』


 水戸さんは、その声でピンときた。


『変゚態゚(私の隣にいた人?)』


「ごめん、なにを言ってるのか、わからない」


 水戸さんは肩を落とした。


「私、覚えてる?」


 覚えてるはずがない。いま、目の前にいるのは、どう見ても獣なのだ。この声で覚えているのは、若い女性の姿。


 生前の水戸さんは、スナックのママで生計をたてていた。お客さんの顔と声は、すぐ覚えていた。


 声はわかるが、姿が一致しない。いや、こんな獣顔の女性に知り合いはいない。


 何者は、歯に挟まった鹿の毛を伸びた爪でほじくりながら、水戸さんに近寄った。


「私は大神音子(おおがみねこ)、満月と新月に、月を見るとこうなっちゃうの。中身も野獣化しちゃうから、生きた獣の肉が欲しくなっちゃうのよ……先天性よ」


 大神の正体は、狼男ならぬ、狼女だった。


「唯一、性格が変わらないだけ救いだわ」


 水戸さんは帰ろうとした。


「ちょっとちょっと、いま、私を否定して、無かったものとして扱ったでしょ!? あなたも人のこと言えないからね!!」




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