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マリア

第18章 虚偽曲 ①



智「翔くんさえよければ、の話だけどね?」



腕の中で智が勝ち誇ったように笑う。



この家には俺と智のふたりだけしかいない。



ダメ押しとばかりに、智の腕がさらに強く俺のカラダを引き寄せた。



「ごめん。智くん、俺……。」


智「え?」



が、驚き、腕の力が緩まったその体をそっと押し退ける。



「いいよ、そこまでしなくても?恋人のフリはちゃんとやるから。」


智「あ…あの…」



……誘いに乗ってはいけない。



頭のどっかで、もう一人の俺が囁く。



「松本先生がちゃんとお前だけを見るように仕向けてやるから。」


智「ま、待って!!」



帰ろうと背を向けた時、切羽詰まった声で呼び止められる。



智「助けて…欲しいんだ。」


「……。」


智「先生の気持ちがどこにあるのか分かんなくて…」



智の声に、僅かばかりの涙が混ざる。



智「自分一人じゃもう、どうしたらいいのか…。」



そんなこと、俺に言われても…



でも、二人がうまくいかなくなったことの一因は俺にもあるわけだし。



だからと言って、口車に乗せられて、松本と完全にヨリを戻した時、俺に無理矢理ヤられたなんて言われたら…。

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