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原稿用紙でラブレター

第2章 年上彼氏の攻略法






にのちゃんの家に着いたはいいものの、一つの問題が立ちはだかった。



…俺って一体何者?


家族の人に何て名乗ったら怪しまれないんだろう。


友達にしては歳が離れてるし、同僚にしては若すぎる。


教え子…が妥当だけど、この時間にわざわざ訪ねるなんて逆に怪しまれそうだし…



『二宮』の表札がぼんやり灯る門扉の前で、インターホンを押そうか押すまいかの葛藤が始まる。



あぁ、どうしよう…



「…あの、何か?」

「っ!」


ふいに聞こえた声に大きく肩を揺らして振り向くと、少し離れた位置からこちらを窺う女の人が居て。


カジュアルな服装に片手にはスーパーの袋を提げ、やや警戒したような視線を送ってくる。


瞬時ににのちゃんのお母さんだと分かって、急に背筋に緊張が走った。


「あっ、あのっ!こ、こんばんは!
僕、にの…みやくんの、友達で…」


自分でも分かるくらいぎこちない喋り方で、だけど何とか怪しまれないようにと頭をフル回転して続ける。


「あの…忘れ物を、届けにきましたっ…
あ、こんな遅くに、すみませんっ!」


言いながら勢い良く頭を下げれば、仄暗いアスファルトに伸びる影が遠慮がちに動いた。


「…そうなんですか。わざわざどうもすみません。
あ、ちょっと待っててくださいね」


その優しい声色にゆっくり顔を上げると、横を通り過ぎながらニコッと笑いかけてくれて。


その笑顔がにのちゃんに似ていて、強張っていた体が少し解れたような気がした。


パタンとドアが閉まり、急に落ち着かなくなって意味もなくキョロキョロしてしまう。



あ…やべっ、友達って言っちゃった!


怪しまれてないかな?


…てか俺こんなカッコで良かった?


うっわ、靴汚れてんじゃん!



と、体をペタペタ触り片足を上げてスニーカーの裏まで確認していると、真っ暗だった二階の部屋の灯りがパッと点いて。


にのちゃんの部屋かな?と思いながら見上げた時、カーテンの端が少し開いた。


そこからチラッと顔を覗かせたのは紛れもなくにのちゃんで。



あ、にのちゃ…



けれど俺を見つけると遠目からでも分かるくらい驚いた顔で、慌てるようにカーテンが閉められた。



…あれ?

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