テキストサイズ

エレベーターにて……

第1章 夢、風鈴、迷子は、終わったって!?

 今年、定年退職を迎えた男、盆納太丸(ぼんのうたまる)は、とにかく無性に暇をもてあましていた。

 趣味と呼べるほど、興味を持てるものは特になく、時間はたっぷりあるのに、なにをしていいのかわからないまま、もてあましていた。

 今まで、仕事一筋でここまでやってきた。仕事は、道路の上で誘導灯という赤いスティックライトを振り回す仕事だ。

 それを、42年続けた。

 出世なんてない。

 一生懸命、続けた。

 もちろん、出会いなんてない。出会う場所に行ってない。だから、結婚もしていない。つまり、独身。すなわち太丸自身、誰も手をつけていない、いまだにマッサラな身体だ。

「わし、もう終わっとるなぁ……」

 これを、何万回呟いたことか……。

 ただ、初恋はあった。それは、高校生の頃に教えを受けていた、科学の女教師だ。いつか、パンツを見たいと夢見ていた。

 太丸は、人生をやり直すつもりで、ある挑戦をはじめようとしていた。


 それは……携帯電話を持つことだ。

 これまで連絡は、自身が住む、6畳一間のアパートに置いてある固定電話で間に合っていた。

 携帯電話があったって、メールするような相手などいない。すぐそばに会社の者がいた。

 喋る相手はいたのだ。メールなんて必要なかった。

 だがついに、勇気をもって、65歳になって、MTTの携帯電話のショップ、DOKONOまで足を運び、初めて平成の電子機器に手を触れた。

「すまあとぷほん」

 読み方からつまずいていた。

 使い方を聞くも、全く意味がわからない。

「あの、あぷりやら……うぃんどとか……なんですか? 電子まねって、なんの真似ですか?」



 らくらくホンを進められた。

 だが、これでも、ある程度のSNSには繋げることが出来るという。

「SNSとは?」 

「あ、ソーシャルネットワーキングサービスの意味で……」とショップの女性店員は、落ち着いて説明する。

「ソースがねっとりしたわ~サービスとは?」

「あのですね、今でしたら、つい言った~とか、顔本、りゃいん等ありまして、日記とかコミュニティなどで、ネットを通じて色んな方と情報交換できたり……」

「私、日記書きませんねん。二日坊主でしてなぁ……」

「娘さんか、息子さんはお使いになられてませんか?」

「私、独身でんねん」

「……」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ