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こんな恋って、アリですか?

第3章 お宅拝見


「……1人暮らし? 無駄に広いな」


  部屋を見渡した綱吉の感想は、
  柊にとって新鮮だった。


「普通は綺麗なお宅ですね、とか、多少なりとも
 お世辞くらい言うものじゃないのか」

「確かに綺麗ではあるけど無駄すぎ。酒屋さんみたいな
 アルコール陳列棚、広すぎるリビングにお綺麗すぎる
 システムキッチン。どうせ使いもしない
 エコ生ゴミ処理機とかついてるんだろ」

「よくわかるな」

「パターンだからな。それより、すぐ始める?
 お風呂入る?」

「先に清算から済ませよう。いくらだ」


  普段あまり使わない札入れを取り出す。
  家であれば、多少吹っ掛けられても怯まない
  程度には用意がある。


「まったく。金持ちは豪気だね。味見してから
 じゃなくていいのー?」

「TUNAを信じる事にする。僕に損をさせる気は
 ないんだろう?」

「言うね」


  閃く眼光。いい目だ。やはり良い拾い物をした。
  柊は確信した。


「でも俺は後清算主義だから。途中でオプション
 付けても『最初に払った』って踏み倒されんのは
 嫌だからね」

「しっかりしてるな」

「苦労人なの」


  苦笑する柊を見ながら綱吉は肩を竦めてみせた。

  ジャケットを脱いでネクタイを弛める。

  まだ夜は長い。

  すぐに事を始めなくても時間にはまだ余裕がある。

「まずシャワーを浴びようか」


  その隙に乗じて彼の体を抱き上げる。

  間近に見るとますますその端正で鋭い美しさに
  魅かれた。

  体は顔立ちに反してなかなかしっかりとした
  感触だった。

  着やせするタイプかもしれない。


「お姫様抱っこなんて中学の学芸会以来やわ」


  される方は初めてだと続ける。


「初めてって……お姫様役じゃなかったのか」

「ううん、もち、お姫様役だったよ。天の川が増水して
 溺れた彦星を岸に引っ張り上げて、マウス・トゥ・マウスの
 人工呼吸で助けてあげる頼もしい織姫」

「何だそれは」

「さぁね。でも客席は大ウケだった」


  巧笑、疑笑、苦笑、艶笑。

  よく笑って見せる彼だが、
  この自然な笑顔が一番魅力的だった。


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