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Hello

第13章 Cheers for good work * バンビズ

Jun


ホットミルクを持って、カウチに横たわる翔くんに近寄った。

俺の気配に、ふっと気がついたように、少し腫れぼったい目をこちらに向ける翔くん。
額や、指に貼られたテープが痛々しくて、胸が痛くなる。

「……気分は?」

そっと問いかければ、翔くんはかすかに微笑み、大丈夫、というように頷いた。

ソファの下に座り込み、翔くんの顔を覗きこんだ。
翔くんは、恥ずかしそうに目を背ける。


「……んな、見んなよ」

「見るよ。心配だもん」


言って、痛くない方の頬にそっと手のひらをあてた。
ひやりと冷たい頬は、柔らかく、翔くんは目を細めて俺を見上げる。
そして、俺の手に添えるように、自分の手を重ねてきた。


「……大丈夫だから」

「……うん」

「……サンキューな」

「……うん」


大怪我をおして、生放送を二つもこなした翔くんのプロ根性に、思わず涙が溢れてきた。

痛いはずなのに、笑顔を絶やさなかった翔くん。
辛いはずなのに、大仕事をこなしてる別のメンバーに思いを寄せていた翔くん。

全てが終わって、俺の車に乗り込んだとたん、ぐったりと目を閉じた翔くんに、心臓がとまるかと思った。
小さく、ごめん……と呟く翔くんに、ううん。寝てて、と返すのが精一杯で、なるべく体にさわらないように静かに運転することだけに集中した。

「……なんでお前が泣くの」

「…………」

おかしそうな声。
痛いからか、あまり表情は変わらないが、声音だけで、いつもの翔くんの顔が思い浮かぶ。

「翔くん……」

「……ん?」

「カッコ良かったよ」

「……違うだろ。カッコいいよ、だろ」


過去形にすんなよ、といたずらっぽく言われて、
泣きながら笑った。
翔くんは、俺の手を離し、俺の目元に指を這わして、涙をぬぐってくれる。


「…おまえがいたから頑張れたよ」


優しく囁かれて、首を激しく振った。

なんにもしてないよ、俺なんて。
なんにもできなかったよ。

翔くんは、そんな俺を見て、ふっと微笑んだ。


「…なあ。キスして」

「……今?」

「……頑張ったごほうびに」


翔くんの珍しいお誘いに、鼻をすすりながら、思わず笑顔がこぼれた。


「…翔くん……」


お疲れさま

翔くんが軽く頷いた。

そっと交わしたキスは涙の味と消毒薬の香りがした。

20180102

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