Hello
第15章 会いたいひとは * 山
Satoshi
何をどうやっても怠い体。
火照る顔。
何よりも辛いのは、目の奥に響く強い頭痛。
流行り風邪に、まんまと罹患した。
事務所からも休養命令がくだり、強制的に数日間休みとなった。
目を開けてるのも辛いから、ベッドで一人ひたすら眠る日々。
今が朝か昼かも分からない。
時々、完全装備のマネージャーくんが来て、何やら声をかけていろいろ置いていってくれてるけど、なんだか夢の中の出来事のようで、はっきりしない。
……あー……頭いてぇ……ダルい……
寝返りをうって、はあ……とため息をついたら、部屋の扉が静かに開く気配がした。
エアコンをたいたうすぐらい部屋に、廊下の冷たい空気がふわりと入り込んでくる。
……マネージャーくんかな…?
部屋に入ってくる人の気配がして、ふっと薄く目を開けた。
「……大丈夫?」
とたん、俺を見つめるドングリ目とバッチリ目があい、俺は、思わず目を見開いた。
「しょっ……」
次の瞬間、俺は、がばっと布団に潜り込んだ。
あんた何してんの!?
「……智くん?」
心配そうな声がして、俺は焦って体を丸めた。
「翔ちゃん…こんなとこ来ちゃ駄目。うつる。帰って」
必死に、言葉を絞り出す。
布団越しに聞こえたのか、翔ちゃんが、うん……といって、俺の背中を優しく撫でた。
ダメだよ……!
数日後に大きな仕事ひかえてるやつが、こんなとこきちゃ!!
「大丈夫。すぐ帰る。……平昌行く前にどうしても、顔が見たかったんだ」
「…ダメ。帰れ」
「お願い。智くん。顔だして」
「…」
「智くん」
「……」
俺は、根負けして、そろそろと目だけを出す。
部屋の小さな明かりに浮かび上がる翔ちゃんが、嬉しそうに笑う。
数日ぶりに見る翔ちゃんは、マスクをしてたけど、大きな目は力強くて優しくて、いつも通り元気なのが分かった。
大きな手が、俺の額に触れた。
その手つきは泣きたくなるほど優しい。
「熱いね……大丈夫?」
俺は頷いた。
「……頑張ってくるね」
もう一度頷いた。
「行ってきます」
翔ちゃんが、ふわりと俺の髪を撫でた。
「……行ってらっしゃい」
頑張れ。翔ちゃん。
俺も、あなたに会いたかった。
パワーをもらえたよ。ありがと。
だから、元気に帰ってきてね…ここに。
20180207