テキストサイズ

BLUE MOON

第7章 立場


「どうですか?」

今日の記憶を消し去りたくてモモを無理やり風呂場で抱いたのに

「うん…モモの味がする」

どうしてキミは

「よかったぁ」

何もなかったかのように振る舞えるのだろうか。

遅くなった理由を聞きもせず咎めもせず

「もっとお料理上手にならなきゃ」

俺たちの未来を想像してくれる。

キミの胸に光る三日月のネックレスを雅から受け取ったあの日、モモは俺に『捨てないで下さい』と、まるで子猫のように懇願した。

涙で濡らす頬を撫でながら俺はキミになんて言ったっけ

たくさんの愛の言葉と共に『あと何回愛してるって伝えたら信じてくれる?』と、俺の気持ちを信じてほしいと伝えたよね。

あの日モモは俺と雅を見て何を想ったのだろうか

俺は今まで雅に対して一度も恋愛感情を抱いたことなんてなかったのに

捨てないでほしいと懇願するほどモモの大きな瞳には不安要素を含んでいたのか?

「ビールもう一本持ってきましょうか?」

空になったことも気づいていなかったグラスを口に運ぶ手前

「あ、もういいよ」

俺は今日あった出来事をモモに話すかどうか未だに決めかねていた。

「シチューをおかわりしたいんだけど」

「喜んで」

いつだったかモモはおかわりをしてくれることが何よりもうれしいと瞳を細めていた。

美味しいとはいくらでも言えるけど、おかわりは本当に美味しくないとしてもらえないから…と、モモらしい発言に俺も目を細めたっけ

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

チキンと玉ねぎジャガイモに人参、そしてしめじか入ったシンプルなシチュー

「旨い…旨いよ、本当に旨い」

どこにでもある誰でも作れる市販のルーを使ったクリームシチュー

「ウフフ、そんなに言われると嘘に聞こえます」

俺はそんなシチューみたいにホッとできる桃子と

「いや、本当に美味しい」

「もう、嘘にしか聞こえません!」

一生を添い遂げたいと思ったんだ。

バカな女じゃないから何かしら気付いてはいるだろう

「モモ…」

「はぃ?」

首を少しだけ右に傾けるその仕草

「好きだよ」

「どうしたんです?急に」

すぐに真っ赤に染まる愛らしい頬

「食べ終わったらまた抱いていい?」

「もう…」

俺の目も見ずにコクりと頷いてくれたキミを手放さなくていい方法を誰か教えてくれよ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ