テキストサイズ

BLUE MOON

第5章 嫉妬


…ったくあのバカ

俺が席を外すとすぐにモモに近づいて

「大丈夫、桃子さんなら出来ますよ」

どさくさに紛れて華奢なモモの肩に触れながら

「桜木チーフにも頼まれてる仕事があるんです」

「俺も出来る限り手伝いますから」

頼み事をするときのあの馬鹿丁寧な口調で距離を詰めようとする。

モモは溜め息をつきながら渡された書類の束を捲る。

「桜木聞いてんのか?」

「あぁ、聞いてるよ」

魚住と今回のプロジェクトの最終確認をしているって言うのに気が気じゃないオレ。

魚住は振り返りながら俺の視線の先を見ると

「あらら、また五十嵐に押し付けられちゃってんだ」

困ったように笑った。

「どうにかなんねぇの?」

「仕事だからねぇ。度が越えるようなら注意するけど」

「どう見ても越えてんだろ」

モモは最近働きすぎだった。

家でも着替えもせずにソファーで寝落ちしていることもしばしば

「俺が口出していいなら出すよ?」

「それは先輩として?彼氏として?」

「両方だよ」

俺はそんなモモを気にして仕事はなるべく振らないようにしていたが あの五十嵐は逆だった。

「桜木、気持ちはわかるけど決めるのはももちゃんだからな」

アイツはことあるごとにモモを呼びつけて自分の仕事に関わらせていた。

だから 五十嵐が不在時の問い合わせにも対応できてしまっていていつの間にかアイツの右腕となっていた。

…嫉妬

まぁ8割そうかもしれない。

お互い落とし所を見極めて息があってきたようにも見える。

いつかこの部署を離れるときに仕事のできるヤツと組ませたいって言ったのは確かに俺だけど

「さすがに押し付けすぎだろ」

明らかにアシスタントとしての域を越えているのは許しがたくて

「やめろ桜木」

…ガッ

魚住が制止するなか気持ちのまま椅子を引い
たそのとき

「わかりました。やります。やればいいんですよね」

…勘弁してくれよ

「さすが桃子さん恩にきります」

「さすがじゃないですよ首振るまで粘るくせに」

時すでに遅し…二人は同意の握手をして早速1つの書類を覗き込んでいる。

そんな姿を見て魚住は俺の肩をポンポンと叩いて中断していた最終確認の話を促した。

…そろそろバラすかな

ダメだ…そんなことしたらヤツにさらに火を付けることになる。

…どうすりゃいいんだよ

ストーリーメニュー

TOPTOPへ