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ながれぼし

第9章 flying げっちゅー

*大野*




カラカラ…


戸を開ければ、ひやっとした冷たい空気が流込む。

一瞬だけ、外へと出るのを躊躇って
でも、やっぱり外に出ようと思い直して

一歩。ベランダへと足を出した。


すう…と
吸い込めば、肺の中までひんやりと冷たくなる。


「……さむ」

11月、急に寒くなった気候に
ありきたりな言葉が口を突く。

ブル。と震えた体。
それを抱え込むように両腕で自分を抱き締めて。


少しだけ少なくなった周りの家から漏れる明かり。

避けるように、ゆっくりと空を仰げば
目の前に見える、金色に光る月。


「…」

君は今、何を見ているのかな。

君との距離は余りにも遠くて
余りにも想像もつかなくて

いくら手を伸ばしても
大きな声で呼んでも届かない。


そんなのわかってる。


けど
「しょーくん…」

君の名前を呼んでしまうのは
会いたいから。


会いたい

会って話をしたい


仕事大変じゃない?
あっちの人達と仲良くできてる?
相変わらず…モテてんの?


ううん、そんなじゃなくて
そんなことじゃなくて

くだらないことでいいんだ
朝ごはん何食べた?とか
面白くなくても
眠くなっちゃうような話でも


声が聞きたい


会いたい

会って俺を抱き締めて

そして…



ヒュゥ…!

「ぅ…さむぅ!」

吹いた風が寒いのか
自分でも呆れるくらい乙女な思考に寒さを感じたのか

ブルルと体が震えた。


冗談抜きで風邪引く。
明日も仕事だし、中に入ろ。


もう1度だけ、空を見上げて
煌めく月を眺めて
半日後には翔くんもこの月を見てくれるかな。


やっぱりメルヘンちっくな思考の自分に
ふ、と笑いが漏れる。


カラカラと戸を開けて
一歩室内へと踏み入れれば


「あったけー」


暖房万歳
文明の進化万歳
日本万歳

世界万歳


こんな思考は君のせい

いつでも明るくて、面白くて
俺のつまらない話にも絶妙に突っ込んでくれる

ちょっとふざけすぎちゃう節があるけど
そんなとこも

いとおしくて

そんなとこも

全部、全部

好きになっちゃったんだよ。



ねぇ翔くん。


遠いよ


地球の裏側ってなに?
宇宙の方が近いんじゃない?

ちょっとそこまでって行くには
余りにも遠い君までの距離

だから、

「ばーか」
そう言ってやった。

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