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高校生だってムラムラする。

第4章 噴出


 そのあとの講習に集中するだなんて、無理な話である。
 私はぼんやりとルーズリーフの罫線を見つめていた。どうせ当てられることなどないのだ。授業よりも考えたいことは色々あった。
 昨夜、肌に剃刀を当てたばかりなのは幸運だった。抜かりなく完璧だとまでは言えないがまだマシだろう。問題は汗を拭き取るデオドラントシートである。残量に自信がなかった。

 悶々と考えているうちに教師が講義の終わりを告げた。同級生は和気あいあいと寄り道の計画立てに興じながら、さっさと下校しようと荷物をまとめている。
 私も普段ならばそうするところだが、今日はどうにも手が進まない。
 嫌な訳では無い。ただ、気が重い。不安と緊張ばかりが先行している。出来ることなら、素知らぬふりをして真っ直ぐ家に帰りたい。そんな思いに駆られていた。

 荷物は揃ってしまい、教室に残る言い訳はなくなった。廊下に出ると、黒崎がどこか緊張した面持ちで私を呼ぶ。

「お疲れ。……今日は、準備はいいだろ? ちょっと休もうぜ」
「ああ、そうね」


 校門を出たところで、彼は無言で手を差し出した。私には、それに応えることははばかられた。緊張やら暑さやらで汗が止まらないのだ。

「私、その、汗が……」

 気まずい思いで断るも、黒崎はちょっと片眉を上げたあと、構わず私の手を掴む。

「気にしねぇよ、別に」

 ぐっと指に絡む彼の指先は、夏だというのにひんやり冷たかった。


 私の黒崎の自宅はさほど遠くはない。小学校の学区は違うものの、最寄り駅自体は一つ隣である。彼はいつも私のために、一駅分歩いて帰る羽目になっているのだ。
 しかし、自分が好きでやっているのだから、そんなことを心配する必要は無いと肩をすくめるのが彼だ。彼のそのようなところが、私は狂おしいほど好きだった。

「……お邪魔します」

 私は彼の家の玄関で空っぽの室内に向かって頭を下げた。白い壁に薄い色のフローリングが清潔そうな印象だった。カーテンは季節によって変えているのか、涼し気な水色のストライプ模様だ。

「こっち、俺の部屋だから。飲み物入れてくるから待っててくれ、麦茶でいいか?」
「あ、うん。ありがと……」

 彼は自室の空調のリモコンを手早く操作したあとにそう尋ねた。荷物、そこ置いといて、と指をさされた辺りに、背負っていたリュックサックを出来るだけ丁寧に置く。

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