あたしの好きな人
第8章 新しい生命
哲と気まずいまま、月日は過ぎて行き、とうとう仕事を産休という形を取り、
大阪から去る日が近付く。
その前に一度産婦人科に、検診に行くことにした。
本当はもっと、こまめに通うべきだったのだけど、なかなか忙しくて、
日にちは開いてしまったけど、最近少し体調も良く感じたから、
一人で行くことにしたんだ。
相変わらず、アットホームな産婦人科の雰囲気に、前回来た時よりは、落ち着いた気分で
待合室で名前を呼ばれるのを待った。
やっと名前を呼ばれて、診察室に入った。
診察台に横になり、お腹にジェルみたいなモノをぬられて、
小さなマイクのようなのを、押し当てられた。
パソコン画面みたいなのを、先生と一緒に見た。
「……あれ?……動いてない?」
暫くして、マイクのようなモノを、お腹にぐりぐり押し付けて、
先生がしきりに首を傾げた。
「……これはもう、動いてないなぁ」
……意味が分からない、どういうこと?
先生とパソコンの画面に映る、白いモノを目を凝らして見る。
「……ほら、この白いやつね?これが赤ちゃんなんだけど、前に来た時は少し動いてたのを覚えてるかな?」
「はい、分かります」
確かに前に来た時は、その小さくて白いのが動いてた。
「……今ね、全く動かないんだよね?」
胸の動悸が激しくなる。
どういうこと?どういう意味?
「……それって……?」
「……自然にお母さんの体の中で死んじゃった、ということだね?……妊娠初期には割とあるんだよ、原因はなくてね?お母さんが悪いわけでもない、ただ、この子の生命力がもともとなかったということだね?」
「……そんなことって、あたし別になんとも……っ…!」
「大きさ的にはわりと最近だから、こうなった場合、一度手術して取り出すことになるから、このままにしてはおけないから、早い方がいい、明日また、来れるかな?……一応麻酔を使うから、付き添いは必ず必要になるからね?……今回は残念だったね?」
「はい……ありがとうございました」
呆然としたまま、診察室を出た。