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あたしの好きな人

第4章 離れて気付く思い




岳人side


夢の中で咲良が泣いている。

そういえば抱いてる時もずっと泣いていた。

嬉しい涙かと、勝手に勘違いしてたけど。


『……愛してる』


……確かに聞こえた、咲良の声で、がばりと体を起こした。

手を伸ばせば届いたはずの、咲良の温もりがどこにもない。

「……咲良?」

……どこにも居ない。

ベッドサイドに置いてある、婚約指輪を見つけた瞬間、拳をベッドに叩きつける。


……気付いてた筈だ、おばあちゃんを亡くしてからの、咲良の普通じゃない様子。

ずっと仕事を休業して、実家で呆然とした日々を過ごして、

何度か連絡しても上の空、ただ、日にちが過ぎるのを待ってたようにも見えて、

不安で堪らなかった。

だから繋ぎ止めるようにプロポーズして、体まで繋がり合い、安心してたのは、

俺だけだったのか。

幸せだったのは俺だけだったのか。

手に入れたと思った瞬間、また、俺の元を離れていく。

いったい、いつまで追いかければいい?

いや、決めた筈だ……。

俺はいつまでも咲良に振り回され続け、ずっと追いかけ続ける。

俺の元にいられないと思うなら、もっといい男になって待ち続けてやる。

「……舐めんなよ、咲良」

そう呟いて、薔薇の花束がないことに気付いた。

普通の女なら、婚約指輪を持ち去り、薔薇の花は捨てるだろうに。

きっとご丁寧に片付けて、無事な薔薇だけを持って帰ったんだろう。

ああ、あいつ馬鹿だな。

だから……。

薔薇の花言葉そのままの気持ちが、消えることはないんだ。

愛してる……。

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