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本気になんかならない

第36章 夜は恋蛍

その場に置いていってくれればいいのに、彼は私に声をかける。

そんな姿に、私は惑い、すがってしまう。
さらなる惨めに自分を追いこんでしまう。

座席に戻った私の前に部屋の鍵を置き、ハンカチを渡そうとする彼。

そんな一時の同情なんていらない。
私が欲しいのはあなたそのもの。

「また、会えるかな?」

「会えるよ。また、聴きに来る」

終わりを自覚しての悪あがきに、ダメ元で尋ねた言葉は、彼女としてではなく、演奏家として返される。

目をそらして、うつむく彼に尋ねてみる。

「カクテル言葉ってあるんだってね。

だからだったの?
あのときは私のこと、、好きだった?」

彼が私の誕生日に選んでくれたカシスソーダ。
あとで調べてみたら、告白に使われるカクテルだとか。

彼の気持ちを覗きたくて、過去形でも"好き"と言ってほしかった……



叶わずに、彼は離れていく。

だけど、それが正解。

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