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まだ見ぬ世界へ

第1章 それぞれのアプローチ

【大野智の場合】


「先にベッド、入ってるわ」

「んー」

歯ブラシを咥えたまま返事をすると、歯磨きを終えた智はスタスタと寝室へと向かった。


今日は……したいな。

明日の朝はゆっくりできるから大丈夫なんだけど……


そんな事を想いながら口を素早く濯ぐと、
智を追って俺も寝室へと向かった。

「うぅー、さみぃー」

先にベッドに潜り込んだ智は、身体を縮こませながら布団に包まった。

俺もそっと布団に入ると、背中を向けている智にピタッと自分の背中をくっつけるように寝ころんだ。


背中に感じる温かさは心地いけど、互いにそっぽを向いているのは寂しい。


吐息は聞こえないから、まだ寝ているって事はないと思うんだけど……


モゾモゾと動いて智の反応を待ってみたけど無反応。

ここはやっぱり声をかけて、こっちを向いてもらうしかないかな。


でも……なんて声をかける?


『したい』なんてド直球な言葉は言えるはずもなく、取りあえずはこっちを向いてくれないと始まらないよね?


フーッと小さく深呼吸をすると『よし』と心の中で気合を入れた。

「あの…さ」
「あのさ」

俺の声と智の声が重なった。

「えっ?なに、どうしたの?」

「カズこそ、どうした?」

互いに身体を反転させると向き合う形になる。

「いいよ、智からどーぞ」

「いんや、俺は後でいいから」

「いや、俺は後でいいから」

「カズが先に言ってよ」

この押し問答が暫く続き、俺も智も折れる気配は全くない。

「もう埒が明かないから、いっせのーでで言おうよ」

「そうだな……じゃあ、行くぞ?「いっせーので」」

「しよっか?」
「……………」

響いたのは智の声だけ。

「おめー、ずりーぞ!」

「ふふっ、ゴメンゴメン」

クスクス笑う俺に真っ赤な顔した智が覆いかぶさってきた。

「嫌がってもすっからな!覚悟しとけよ?」


俺も同じことを望んでたから大丈夫。


「お手柔らかにお願いします」

智の首に手をして顔を引き寄せ、唇を重ねた。


【end】

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