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Fake it

第5章 Red heart

【翔side】

確か、収録の合間だっただろうか。

もう詳しくは憶えてないけど、二人並んで座っている時に、ヘタレな俺は、ようやく意を決して話しかけた。

「ねぇ…貴方は平気…?」

「ん~、何が?」

人目がある場所だったから、ハッキリとは言えなくて。
智君も俺の顔を見ようとしないし。

「俺…俺は、平気じゃないんだけど…」

「…………」

不思議そうな顔で、貴方が俺を見たから。
しょうがなく言ったんだ。

「今日この後、その辺の女とやってこようかな」

「……は?」

精一杯口にした一言だった。

とんでもないセリフに智君の眉に怒気が滲んだから、俺は怯んでしまって言葉が続かなくなって。

唇を噛んで、下を向いて。

言うに言えない言葉を胸のうちで繰り返してた。

好きなんだ。

貴方が好きなんだよ。

特別な意味で、貴方が欲しい。

俺のこと、どうか嫌わないで。

呆れないで。

智君。

「…………」

貴方はしばらく無言のまま、多分俺の様子をじっと見てて。

「……いいよ」

やがて、思いがけない言葉がポツンと降って来た。

どっちの「いいよ」なの?
俺の言いたいこと、伝わった?

って思って。

恐る恐る横目で貴方を見たら、しょうがないなぁ、って。

「オイラが相手してやるよ」

優しい顔で、また言った。





もう何年前のことになるのか。
恥ずかしくて悶えそうになる記憶。

それからずっとハッキリと気持ちを伝えられないまま、ベ ッ ド の中の貴方をひたすらに愛した。

バカな俺。

バカなおれ。

俺はあの人の前では、昔からカッコ悪くて、掌の上で踊らされてる。

全部受け入れてくれるあの人の大きな優しさに包まれて、甘えるばかりだ。

シンプルな言葉一つ、どうして言えなかったのか。

まだ、間に合うのかな……。




















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