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オオカミは淫らな仔羊に欲情する

第29章 心が悲鳴をあげても

「ア、ヒデさん。絢音の様子が変なのよ」

「ん? ―― 絢音?」

『落ちない…………』

「落ちない?」

「は? ヒデさんって、中国語分かるの?」

「あ、あぁ。簡単な日常会話程度ならな
 ―― 絢音? 落ちないって、何の事だ」

『落ちないんだもの、この血……』


 絢音は手を必死に洗いつつ涙ぐんでいさえもする。


「?! ――――」

「じゃあ、今何って言ったの?」

「お前は部屋へ戻っていい」

「えっ、何でよっ。私だってあやの事が心配だもん」

「今のこいつはお前じゃ手に負えん」

「って、そりゃど~ゆう意味よっ」


 日向は絢音の背後から手を伸ばし
 手荒いシンクの水道を止めた。


『な、何するの??』

『ほら、ちゃんとよく見てみろ。お前の
 手はどこも汚れちゃいない』

『嘘!!こんなに真っ赤なのにっ』

「部屋へ戻るぞ」


 有無を言わせぬ力強さで絢音をひょいと
 抱きかかえた。
 すると絢音はそれまでの抵抗は嘘だったかのよう
 静かになって日向に身を委ねた。


『た、す、けて、先生……あたし、怖い』

「咲夜。絢音はしばらく医務室で預かる」

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